高杉さん家のおべんとう

〜離れてても、おなじもの食べてる。〜

最近読んであまりにも面白かったんで
つらつらと紹介のような感想のような妄想のようなものを書きますよ。

まずはあらすじ。

主人公は30を過ぎたオーバードクター、高杉温巳(はるみ)。
博士課程を取ったものの就職がうまくいかず人生はがけっぷち。
彼女もおらず一人悶々と日々を過ごす、冴えないを地で行く男。
そんな温巳の元に突然ある事件が起こる。
姉弟のように仲良くしていた伯母の訃報と、ある一つの遺言。
それは自分の中学生になる娘を引き取ってほしいというものだった。
娘の名前は久留里(くるり)。
口下手で引っ込み思案な久留里と、冴えない温巳。
不器用な二人の共同生活が始まる。

というもの。
ここまで聞くと「うさぎドロップ」とか「パパの言う事を聞きなさい」
に設定が近いものがあるかもしれないですね。
(どっちもあらすじ聞いたくらいの知識しかないですが)

ただこの漫画にはいろいろ他にない(だろう)
面白いところが本当にいろいろあるんです。

まずは話の主軸に「おべんとう」や「ごはん」があるところ。
冒頭にも書いたけれど、おべんとうっていうのは深いんですよね。
作ってすぐに食べるわけじゃない。ただ作るだけじゃない。
いつだって作るときは食べてくれる相手のことを考える。
どんなものが食べたいか、どんなときに食べるのか。誰と食べるのか。
今日はどんな天気なのか。暑いのか。寒いのか。
そしてときには自分の思いも乗せたりする。
ごめんなさい、とか、おめでとう、とか、がんばって、とか元気出して、とか。
そんなたくさんのことを考えて、ちいさな箱の中にギュッと入れる。
そうやって相手のことを考えると、少しだけ相手のこともわかってくる。
少しだけ相手にわかってもらえる。

ごはんだってそうで、
どんなに喧嘩しても、気まずくても、
毎日ご飯を作って、一緒に同じご飯を食べる。
それってよくよく考えると家族にしかできないこと。
向かい合っていただきますしてご飯を食べる。
相手のことを見る時間です。

食事っていうのは生きていく上で一番大事なものだと思う。
だからこそ本当に色々と相手のことがわかる。
例えばこの漫画だと、久留里ちゃんは特売セールにまっしぐら。
少しでも安いもの、オトクなものを買うことに夢中。
方や温巳は今まで食堂やコンビニで済ませてばっかり。
とりあえず買えればいいか、みたいな考えしかない。
料理を作る前ですら二人の考えはこれだけ違う。

お互いにどう接すればいいのか分からない二人にとって、
ごはんやおべんとうを一緒に作るってのは
非常に重要なコミュニケーション手段になります。
温巳は久留里のために、久留里のことを考えながらお弁当を作る。
久留里は温巳のために、温巳のことを考えながらご飯を作る。
相手のことを知ろうとする、相手のことを考える。
二人とも料理が得意なわけじゃないので、ときには失敗して、
ときには四苦八苦しながら一緒に作っていく。
そういうやりとりを重ねながら、よたよたと二人が家族になっていく様が、
原石をゆっくり、ゆーっくり磨いてキラキラにさせていくように、
本当に愛おしく思えて仕方ないんです。

そして次に温巳が地理学の研究者である点。
地理学では、気候や土地柄、風習や民族などの
地域、そして人の作る環境を考えていきます。
ただのデータや数字だけではない、人の想いみたいなものが
研究の要素に密接にかかわってきます。
どうして人はそこに住むのか、そこから去っていくのか。
自分の知らない場所で久留里はどう生きてきたのか。
久留里の知らないところで自分はどう生きてきたのか。
そんな視点からも物語は語られていきます。

そしてなにより、いやもうこれ本当にすごいのが

とにかく久留里がかわいい。

絵がかわいいとか見た目がかわいいとかじゃない。
女の子として久留里という存在ががあまりにもかわいい。
久留里は最初こそ温巳に冷たくしたり、つっけんどんな態度を取ったり、
おとなしくて無口な子だと勘違いされそうにもなるんですがそうじゃない。
それは彼女がコミュニケーション下手なだけ。
久留里は本当に健気に、一生懸命に、彼女なりに頑張るんです。
温巳に初めて作ったおべんとうがちゃんと全部食べられてるのを
確認して満面の笑顔になったり、
温巳の帰りが遅くなると、電話の連絡をひたすら待ちつづけて、
お風呂に入るときなんてわざわざ家の電話を風呂場まで持っていったり、
温巳の名前を呼ぶ勇気がなくて、クリスマスの日のおべんとうに
顔真っ赤にしながら「ハルへ」って書いてみたり。
とにかくしぐさや表情、ひたむきさがむちゃくちゃにかわいいです。
地上に降り立った天使。エデンは家の中にあった。
久留里ちゃんが笑顔になるとそれだけで読んでるこっちも
ほほが痛くなるくらいにやけてしまいます。
その瞬間に鏡見せられたら多分僕は死ぬ。
そして徐々に友達が増えたり、新しいことに挑戦したり、
そうやって成長していく彼女を見ていると本当にもうたまりません。
ゆっくりとだけど、少しずつ大人になっていく彼女。
最新刊まで読んで1巻に戻ると、久留里ちゃん大人になったねって思える。


でも久留里ちゃんとの生活も楽しいことばかりじゃなくて、
温巳は久留里のためにいろんなことをしてあげようとしますが
うまく行かずに四苦八苦。
久留里も苦手な人間関係や新しい生活に四苦八苦。
辛いことや大変なこともいっぱいあります。
この漫画がすごいのは、そういったところをただ悲しい出来事として
見せるんじゃなく、それでも家族はいいよね、と
明るく前向きに描いてることです。
色々なことがあっても、久留里がいるから、温巳がいるから。
家族がいるから、頑張って生きていけるよ。
そうやって一緒に成長していく二人が本当に素敵です。
家族っていいよね、本当に心からそう思える漫画だと思います。

この漫画を読んでいて強く思ったのは
「幸せはすぐ手の届くところにあるけれど、
一人では届かないくらいに、ちょっとだけ遠くにある」
のかなということ。
人生には本当にいろいろなことがあって、
辛いことも、嬉しいことも、本当にいろいろある。
だけど、それら全部ひっくるめて「幸せだな」と思うことだけは
きっと一人ではできないんだろうなと。
自分が心から向かい合える相手がいて。
遠い未来なんかじゃなくていい。
今は明日のことだけでもいい。
目の前の一歩を、一緒に歩いていく。
ちょっとだけ未来にあける、「おべんとう」に思いをのせて。
家族っていいよね。
僕も結婚したいです。

この漫画はきっと、親と子でも、男女でもなく
二人の「家族」の幸せな物語。そんな風に思いました。

結婚したいです。